すぐに役立つ漢方の知恵 漢方入門講座10

日本で独自に発達したのが和漢薬

漢方医学は、14世紀ころの明の時代の中国から室町時代頃に日本に伝えられ、独自の発展をとげました。その日本漢方(和漢)では、主に患者さんの体力の面から、実証と虚証が区分されます。体力が充実して予備能力が高いものを実証、体力が衰弱して予備能力の低下しているものを虚証と診断して、漢方薬(和漢薬)を処方しています。

体力があるかないかは、体のさまざまなサインをもとに判断されます。体格ががっしりして、胃腸が丈夫で、疲れにくく、寝汗をかかないのが実証の特徴です。ことに胃腸の働きは重要で、食べすぎたり、冷たいものを飲んだり食べたりしても胃腸にこたえず、一食や二食抜いても平気で仕事をこなせるようなかたは実証と診断されます。逆に胃腸が弱く、指先などでみぞおちをたたくとピチヤピチヤと音がする所見があると、虚証と診断されます。

また、漢方医学には「補瀉(ほしゃ)の法」という処方の原則があリます。「虚は補し、実は瀉(しゃ)す」といわれ、虚証には体力を補う補剤を用い、実証には病邪を追い出す瀉剤を用いるとされます。

例えば、インフルエンザにかかり、体の節々が激しく痛み、動悸や吐きけがし、熱が体表にこもって汗が出ないようなときは、病邪が充満している実証と見て、麻黄などの潟剤を含む麻黄湯が処方されます。

しかし、麻黄湯は体力が充実しているという意味でも実証に適した薬です。「実は瀉す」と一口にいっても、病邪が体表に充満している点では実証、患者さんの体力としては虚証というケースもあります。このようなとき、麻黄湯のような強い潟剤を用いて大丈夫かどうかは、医師の見きわめ技量ということに なるわけです。

また、体力の充実している実証のカゼには、いつも麻黄湯やよく知られる葛根湯が処方されるわけでもありません。表裏でいえば、麻黄湯や葛根湯が効くのは表証ですが、カゼをこじらせて胸脇苦満(きょうきょうくまん)があらわれるようになると、同じカゼでもすでに半表半裏証と見て、胸脇苦満をとる柴胡を含む薬、たとえば小柴胡湯などが処方されます。

こうして整理され、しぼり込まれた患者さんの証は、最終的には処方名をとって 「葛根湯の証」などと表現されます。ただし、ここまでで診断が確定したのでは なく、実際に葛根湯を投与して効果を確認できたときに「葛根湯の証であった」 というのです。葛根湯がもし効かなければ、それは薬自体のせいではなく、医師の見立て違いだったということになります。

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■監修/孫苓献 広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士 ・ アメリカ自然医学会(ANMA)
自然医学医師 ・ 台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師