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中医師・今中健二先生


中医師。中国江西省新余市第四医院医師。神戸大学大学院非常勤講師。1972年兵庫県生まれ。

学生時代に母親をがんで亡くした経験から医療に関心を持ち、社会人経験の後、中国国立贛南医学院に留学。中医師免許を取得し、新余市第四医院で治療に従事。2006年帰国。神戸市を起点に中国伝統医学の普及に努める。西洋医学との垣根を超えた「患者の立場に立った医療技術」発展のため、医師や看護師、医学生に向けたセミナー、中医学に基づいたがん治療の講演など、全国各地で精力的に活動している。2020年中国医学協会を設立。著書に『「胃のむくみ」をとると健康になる』『医療従事者のための中医学入門』

中医学からのがんサポート
中医師・今中健二のがんを生きる知恵

第6回 食事療法 前編 ―がん治療中は何をどう食べたらいいのか―

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年6月
更新:2021年6月

遺伝性や放射性物質など例外はありますが、がんの多くは日々の生活習慣が要因となって発生します。人は日々、活動しているか、食べているか、眠っているかのいずれか。そう考えると、「食べること」が占める生活習慣のウエイトがいかに大きいかがわかります。つまり、日々の食生活ががんを誘発しているケースは決して少なくないと言えるでしょう。

今号から2号に渡って、がんと食習慣の関係、そして、がん治療中、治療後の食生活についてお話いただきます。前編の今回は、がん治療中の食生活について考えます。

中国には西洋医学、中国伝統医学の2種類の医師免許があり、中医師とは中国伝統医学の医師免許を持つ医師のこと。本連載では「中国伝統医学」を「中医学」と呼びます。

まずは、自身のがんの性質を知る

がんは感染症ではなく、基本的に自身の体の中から発生したものです。そして、そのがんを生み出した体内環境は、主に日々の食生活から作り出されます。治療と併行して食生活を見直すことは、「自分でできるがん治療」と言っても過言ではないでしょう。

とはいえ、すべてのがんに共通する「これぞ、がんを撃退する食生活!」といった決定打は存在しません。なぜなら、がんはそれぞれ、どのような体質の中で生まれたかによって、がん細胞そのものの性質が違うからです。よく「糖質が、がんの餌だ」とか「野菜食でがんが消えた」といった記事を見かけますが、それは〝その人のがんに対しては有効だった〟に過ぎず、すべてのがんに当てはまるわけではないのです。

つまり、食生活を考えるためには、まず自身のがんの性質を知ることが重要。それを踏まえて、そのがんに有効な食べものと食べ方を知ることに意味があります。今回は、がんの性質を見分ける方法と、それぞれのがんの性質に応じた食事療法について話していこうと思います。

血液検査の数値が1つの指標に

中医学では、胃がん、肺がん、乳がんのように、発生した部位によってがんを分類する考え方はなく、どこに発生しようと、タイプかタイプかの2種類に分けて考えます(第1回 病は「胃」から始まる)。

タイプのがんは、体がに傾いた状態、つまり熱を帯びた体内環境から作り出される熱性のがんで、高血圧や糖尿病など血液が濃い状態から引き起こされます。一方、タイプのがんは、に傾いた体、言い換えると、体内に水分が溢れて水泡ができがちな、水っぽい体内環境が生み出すがんです。

タイプとタイプでは、がんが発生した背景ともいうべき体内環境が全く違うので、がんの性質が異なり、当然、対処法も違います。ですから、自身のがんがどちらのタイプかを正しく判断するために、まずは自らの体内環境がに傾いているか、に傾いているかを把握することが必須です。わかりやすい指標の1つとして、健康診断での血液検査の数値を見てみましょう。

体がに傾いていると、血圧やコレステロールなどが高い値として出てきます。脈拍が早い、平熱が高い、顔が赤みを帯びている、といった症状も特徴的です。ただし、血糖値についてはに傾いているときはもちろん、中にはに傾いているときも高くなることがあるので、陰陽を判断する指標にはなりません。

一方、体内環境がに傾いているときは、赤血球とヘモグロビンが低すぎる数値として出てきます。これは「貧血」と判断され、血液量が少ないと捉えられがちですが、実は、水分が多すぎて血液が薄まっている状態であることも多く、これも「貧血」なのです。足のむくみ、冷え症、骨粗鬆症といった症状もの特徴。よく更年期に骨粗鬆症になると言われますが、これは体の水分量が多くなりすぎて、骨の中の栄養分が外へ流れ出していることが多いのです。

陽と陰:中医学の根本的な考え方。陰陽論では「万物は、陰陽という対立する要素を両方持ち、その割合を刻一刻と変化させながらバランスを保っている」と捉えます

毎朝の舌チェックを習慣にしよう!

にせよにせよ、血液検査に数値として明確に表れていれば、自身の体がどちらに傾いているかを容易に知ることはできますが、そう頻繁に血液検査は受けませんし、ギリギリでも正常範囲に収まっていると見落とすこともあるでしょう。実は、血液検査より手軽に、しかも自分自身で毎日、体内環境を知る手段があります。それが「舌を見ること」です。

舌は胃と経絡(けいらく)で繋がっているので、舌の状態はそのときどきの胃の状況をリアルタイムに映し出しています。

体がに傾いているときの舌は赤く、表面には薄い黄色や白っぽい舌苔(ぜったい)が分厚く付着します。この状態は端的に言うと〝食べ過ぎ〟。胃の中に長時間食べたものが残っていると、胃酸とともにグツグツ煮込まれ、スープのような状態になります。そのスープの色が舌苔の色と思ってください。舌苔は胃の中の様子そのものなのです。

体がに傾いていると、舌の表面が水っぽく、側面に歯型がつきます。これは、水分の摂り過ぎで胃の中が水でチャポチャポになってむくんでしまい、その状態がリアルタイムで舌に伝わり、舌も水っぽく張りがない状態になるからです。張りがないので、歯が当たっただけでボコボコと歯型がつきます。

ちなみに、のときも舌の表面に白い舌苔が現われることがあります。これは、胃の中にたくさんの水分が長く留まり、水と胃酸が合わさってスープ状になるからです。ですから、白い舌苔の場合は、舌そのものが真っ赤であれば、舌の側面に歯型がついてボコボコしていたら、と捉えます。

毎朝、起きたら、食事や歯みがきの前に鏡で舌を見て、自身の体調をチェックしてみましょう(図1)。

経絡:中医学では、私たちの体には12本の「エネルギーの通り道(経絡)」があると考えます。それらは、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中を張り巡らされています

がんの一生、幼年期から壮年期まで

自身の体質が陰陽どちらに傾いているかが把握できると、がんがタイプかタイプかもわかります。ここからはタイプ別に食べものと食べ方を考えていきますが、その際、がんのポジションを念頭に置かなくてはなりません。ちょっとその話もしておきましょう。

中医学では、がんの成長過程を4段階に分けて考えます。明確な名称があるわけではないのですが、ここでは、がんが生まれたばかり、もしくは発見されたばかりで、今後成長するかどうかわからない段階を「がんの幼年期」、治療が必要となり、手術や放射線治療、抗がん薬治療など積極的治療を行っている段階を「がんの青年期」、治療を終えて経過観察に入った段階を「がんの壮年期」、治療後何年か経過し、それまでは3カ月から半年に1度だった経過観察が1年に伸びた段階を「がんの老年期」と呼ぶこととします(図2)。

老年期に入れば、たとえがんが存在していても、もう成長しないので、そのままにしておいていい段階、つまり「高齢」のがんというわけです。高齢といっても患者さんの年齢とは関係なく、あくまでもがん細胞の年齢です。「がんサバイバー」はこの段階の方々です。

幼年期は、タイプであれタイプであれ、食事に気をつけることで、がんの成長を止めることができるかもしれない時期です。生まれたばかりのがん細胞は、いわば正常細胞が不良になりかけている状態。そのまま悪性への道を突き進んでしまうのか、それとも踏ん張って元の状態を維持することでグレかけた細胞が消えてなくなってくれるのかの分かれ目なので、この段階こそ、食事を見直す意義が大きいと言えるでしょう。

陽タイプのがんは元栓を閉めることから

まずはタイプのがんについて、幼年期から青年期にかけて見ていきましょう。

タイプのがんが発生する原因は、基本的に食べ過ぎによる栄養過多。分量としてはそれほど食べていないつもりでも、よかれと思って習慣にしていることが実は間違っていて、過剰な栄養摂取、もしくは偏った栄養摂取に繋がっているケースも少なくありません。

熱やカロリー(エネルギー量)が溢れることが原因でがんが発生するので、赤黒い塊、もしくは黄色い膿のような形状が特徴です。傾向として、胃がん、肺がん、乳がんなど、体の上部に多く見られます。

唐突ですが、水漏れを起こしている水道管を修理する手順を想像してください。単に水漏れ箇所を塞いだだけでは、水が勢いよく流れ続けている以上、また別の場所から漏れ出さないとも限りません。まずは元栓を閉めて流水を止めてから水漏れ箇所を塞ぎます。

タイプのがんに対しては、まさにこの理論が当てはまります。食べ過ぎで熱やカロリーが溢れていることが原因なので、まず元栓を閉めてそれらの流入を減らし、その上で、がん治療をして「破損個所」を「修理」するのです。

というわけで、幼年期には食生活を見直して、まず元栓を締めていきましょう。ポイントは、胃もたれさせないこと。そのためには、熱を生みやすい食材、胃の中に長く停滞する食材を減らします。

具体的には糖質と動物性の脂(あぶら)が大敵。米や果物、お菓子を代表とする糖質は、粘着性を持っているので消化に時間がかかり、胃の中に長時間居座ります。動物性の脂といえば、肉、卵、牛乳、チーズ、バターなど。とくにチーズは牛乳を濃縮しているので栄養の宝庫。1週間分の牛乳をチーズ一切れで摂取していると想像してみてください。

以前、私自身が試したことがあるのですが、チーズを毎日食べ続けたら、あっという間にコレステロール値が高くなりました。ちなみに、お菓子を食べ続けて血糖値がグンと上がったこともあります(笑)。

「お米が主食」という呪縛

タイプのがんは栄養が溢れているのですから、それ以上、栄養満点の食材を摂ってはいけないのです。では何を食べたらいいのかというと、野菜です。とくに白菜や玉ねぎ、大根など、色の薄い野菜をお薦めします。もちろんほうれん草やカボチャを食べても構いませんが、そもそも血が濃すぎるのが原因ですから、色の濃い野菜よりも薄い野菜を主にしたほうがよいでしょう。

とはいっても、白菜ばかり食べていられないし、肉も食べたいですよね。そんなときは脂分を落とす調理法を心がけてください。肉は焼かずに茹でしゃぶに。肉も魚も〝お鍋〟にして汁を飲まない。魚は焼き魚ではなく煮魚にして煮汁は捨てる。刺身は脂ごと食べることになるので、なるべく避けましょう。調理法さえ工夫すれば、脂分はかなりカットできます。

また、形状を工夫することで、胃の中に停滞する時間を短くすることもできます。焼肉やステーキはそもそも硬いので、噛んだつもりでも丸飲みになりがち。消化にいいはずがありません。子どもの離乳食は焼肉ではなくハンバーグですよね。つまり、あまり噛めなくても消化しやすい形状にするのがポイントです(図3)。

がんの幼年期には病気に対する真剣度合がまだ弱いので、食事に関しても「これくらいならいいだろう」と、つい糖質や脂ものに手が伸びてしまうこともあるでしょう。だからこそ、この段階で正しい知識を持つことが大切です。そもそも日本人は米を主食と考えているので、「ご飯を食べなくてはいけない」と思いこんでいます。その考えをまずは変えてほしいと思います。

青年期は短期勝負で強めに

青年期は、がん治療と併行して、食事療法を続けていく時期。いわば、元栓を締めながら、破損個所を修理する段階です。そもそも手術直後や抗がん薬治療中は食欲がなくなっていることも多いでしょう。そういうときは無理をして食べる必要がないことは以前も話した通りです(第4回 抗がん薬の副作用を中医学で緩和する 歩行困難・しびれ編)。

この時期の体は、体の修復にすべての気血を集中させているので、消化に回している場合ではないのです。だから、食べたくなるときが来るまでは無理に食べる必要はありません。

もし治療中でも食欲が減退しない場合は、意識的に食事療法を取り入れてください。この時期は短期勝負でいっきに食事療法を強めに行ってみるのが効果的。米(ご飯)は一切食べず、代用品として夏場は冷ややっこ、冬なら湯豆腐にしてみることも一考です。麺類で言うと、胃の中で比較的熱を生みにくいのが、そうめんやうどん。逆に、蕎麦は栄養価が高く、ラーメンは胃の中で熱を生みやすいので、タイプの食事療法には不向きです。中でも焼きそばは、とりわけ脂分が多いので避けましょう。

気血:中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも気血の「巡り」が重視される

陰タイプのがんは雨続きの中で育ったキュウリ!?

次に、タイプのがんについてお話します。

熱を伴う赤黒い塊や黄色い膿の形状が特徴のタイプのがんと違い、タイプは、とにかく細胞内にも組織内にも水が溢れ、水に浸かっている状態から発生します。

生育期に雨が降り続いたキュウリ、もしくは水をやりすぎたトマトを思い浮かべてください。実(み)は大きいけれどブヨブヨしていて味も薄い。そんなキュウリやトマトは冷蔵庫に入れていても数日で汁が出て腐ります。一方、日光に照らされて栄養分でしっかり固められたキュウリやトマトは味が濃く、日持ちもします。

タイプのがんは、まさに雨続きの中で育った柔らかいキュウリのイメージ。水分が多すぎて、中から水が漏れ出したキュウリは、全体的にジュクジュクになってしまいますよね。これこそがタイプのがんの難しさなのです。水泡や褥瘡(じょくそう)ができるタイプのがんは、水分の影響が、部分的にではなく全体に及んでいることが多いので、組織そのものを摘出しなくてはならないケースが散見します。

このタイプのがんは体の下部に現れる傾向があり、大腸がん、子宮がん、前立腺がん、膀胱がんなどに多く見られます。

タイプのがんの原因は、ひとえに水分の摂り過ぎです。現代社会では、とにかく「水を飲みましょう」と推奨され、デスクワークのときでさえペットボトルを傍らに置いて水分を摂取し続けている人もいるほど。これは明らかに飲み過ぎです。

また、少し意外かもしれませんが、健康に気をつけ過ぎて、野菜ばかり食べたり、野菜ジュースばかり飲んでいる人も、体が水で溢れていることが少なくありません。糖質や脂分を避け過ぎることで血液がサラサラになり過ぎてしまい、体の中が水分で溢れ、血液が薄くなり、体内のあちこちが雨続きの中で育ったキュウリ状態になってしまうことがあるのです。高血圧や糖尿病などに処方される血液をサラサラにする薬を服用している人も同様です。

とにかく水分摂取を控えよう!

タイプのがんの幼年期、青年期は、とにかく水分を減らしていくことが重要。食事については既に気をつけている人が多いので、糖質と脂分の過剰摂取は避けつつ、それまで通りで大丈夫です。あえて言うなら、焼きナスやサツマイモ、蕎麦といった水分を吸収する食材がお薦め。ハトムギも水分を吸収してくれるので、米に混ぜて炊いてみましょう。

ポイントはバランスよく食べること。繰り返しになりますが、水分過多にならないことだけ気をつけてください。目安は、舌の側面に歯型がついていないか、そして舌の表面が水浸しになっていないか(図1)。他にも、頬の内側を頻繁に噛んでしまったり、口内炎が頻発するなども水分過多のサインです。ぜひ毎朝、チェックする習慣をつけましょう。

次回は、タイプ、タイプともに、がん治療を終えた後の壮年期、老年期の食生活についてお話します。がんを再発させないための食べものと食べ方について考えていきましょう。(次号へ続く